研究概要 |
ランダム行列と自由エントロピーを基に自由確率論の研究を行うとともに,関連して,行列解析,作用素論,量子情報理論について研究した.平成21年度の成果は以下の通りである. 1.日合・植田は,2つの射影作用素の場合に,相互自由フィッシャー情報量と自由エントロピーの間に対数ソボレフ不等式が成立することを示した.ユニタリ軌道アプローチを用いて,一般の多変数の非可換確率変数に対する軌道的自由エントロピー(次元)を定義し,通常の自由エントロピー(次元)と軌道的自由エントロピー(次元)の間に自然な関係式が成立することを示した.この研究をさらに発展させて,普遍n変数C*-環の自己共役ポテンシャルに対する軌道的自由圧力と呼ぶべき量が導入し,自由圧力と軌道的自由圧力の間に,自由エントロピーと軌道的自由エントロピーの間と同様な関係式を導いた. 2.量子確率論や量子情報理論の研究では,基礎となる行列の空間における微分幾何的な考え方と手法が有用である.日合・Petzは,正定値行列のなす多様体上に行列の種々の平均と関連して定義されるリーマン計量の測地最短距離や測地最短曲線を研究し,ユークリッド計量の引き戻しになるリーマン計量の特徴付けを与えた. 3.日合・Mosonyi・小川・林は,近年発展が著しい量子仮説検定を研究し,量子スピン系上の相関がある並進不変な状態に対しても,Stein型,Chernoff型,Hoeffding型の3つのタイプの漸近エラー限界を相対エントロピー的な量で記述できることが明らかにした. 4.作用素・行列不等式で有用な概念である作用素単調関数と作用素凸関数は,量子情報の分野でもよく利用される.安藤・日合は,量子情報の問題から派生して,作用素凸関数の変形版である作用素対数凸関数について,作用素平均と関連する研究を行った.
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