研究概要 |
自由エントロピーを基礎に自由確率論の研究を行うとともに,関連して,行列解析,作用素論,量子情報理論について研究した.平成23年度の成果は以下の通りである. 1.安藤・日合は,(0,∞)上の作用素対数凸関数の概念を導入し,それが作用素単調減少関数と同値であることを示し,さらにそれと同値な作用素平均と関連するいくつかの性質を与えた.作用素対数凹関数についても同様に考察した. 2.Mosonyi・日合は,量子α-相対エントロピーが一般化されたカットオフ・レイトで表されることを示し,量子α-相対エントロピーの直接的な操作的解釈を与えた.さらにα-相対エントロピーによって定義されるHolevo容量のいくつかの一般化について考察した. 3.Bourin・日合は,半正定値行列の(ユニタリ不変)対称ノルムに関するいくつかの劣加法性を示すとともに,反ノルムの概念を用いて,Minkowskiの行列式不等式の拡張である優加法性を示した. 4.日合・Mosonyi・Petz-B'enyは,量子相対エントロピーやR'enyi相対エントロピーを含む量子f-ダイバージェンスの劣確率写像の下での単調性とその等号条件について研究した.そのために,(0,∞)上の作用素対数凸関数に対する新しくて有用な積分表示を見つけた. 5.日合・Petzは,正定値行列のなす多様体の上に,平均関数のベキで与えられる核関数によって定義されるリーマン計量について研究した.これらリーマン計量の等距離構造を調べ,測地距離と測地最短線の収束性を考察した. 6.日合・佐野は,(0,∞)上の関数に対する行列凸性と行列単調性をLoewner行列の条件付き負定値性と条件付き正定値性により特徴付けた.有限区間(a,b)上の行列単調関数についても同様な特徴づけを与えた. 7.日合・Petzは,量子情報理論で重要なf-ダイバージェンス,単調計量,量子共分散,χ^2-ダイバージェンスなどの性質が,擬エントロピーを用いて統一的に導かれることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
自由確率論,量子確率論,作用素・行列解析の3つの観点から研究してきた.当初の目的であった自由確率論に現れる不等式の変分原理の研究は必ずしも十分とはいえないが,関連して研究した作用素・行列解析とその量子情報への応用に関して,多方面で多くの成果を上げることができた.
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