本科研費の最終年度においては,量子確率論の数学的基礎である作用素・行列解析に固有な問題を追求し,以下の研究成果を得た. 1. 日合・佐野(山形大)は,実数区間上の関数に対する行列凸性と行列単調性をLoewner行列の条件付き負定値性と条件付き正定値性により特徴付けた.2. 日合・Petz(ハンガリー)は,正定値行列のなす多様体の上に平均関数のベキで与えられる核関数によって定義されるリーマン計量について研究した.3. 日合・Petzは,量子情報理論で重要な単調計量,量子共分散,ダイバージェンスなどの性質が擬エントロピーを用いて統一的に導かれることを示した.4. Franz(仏),Ricard(仏)との共同研究により,作用素・行列解析で有用な作用素単調・作用素凸関数の理論を高階の場合へ拡張し,関数カリキュラスの k 階微分の正値性と関連する k-調関数に対するいくつかの特徴付けを与えた.5. Wigner-Yanase-Dyson歪情報量の凸性問題に端を発した Lieb-安藤の凹凸性が最終的にどんな形まで拡張されるかを考察した.関連して,Audenaertとの共同研究により,行列のベキ平均の間の不等式が成立するため必要十分条件を決定した.6. 幸崎(九州大),Petz,Ruskai(米)との共同研究により,量子情報幾何で基本的な単調計量と関係して半直線上の作用素凸関数に対して定義される線形写像の完全正値性について,正定値関数の概念とフーリエ変換の技法を用いて研究した.
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