研究概要 |
リーマン球面上の有理関数で生成された写像の合成を積とする半群を有理半群とよぶ。その力学系や、ランダムな複素力学系、フラクタル幾何学で現れる自己相似系などの全てを,同時に統一的に研究した。そもそも多項式力学系は数理生物学などの様々な分野の数理モデルで扱われているが、環境などの変化に応じて戦略(写像)が確率的に変化する状況が考えられるわけであり、このことからしてランダムな多項式力学系を調べることは自然であり、重要である。そしてその解析を深く行うためには、初期値空間を複素数まで広げることが必要となるのであり、このことからランダムな複素力学系は自然科学全体にわたって極めて重要であると思われる。ランダムな複素力学系については、一つ一つの写像がカオス的部分(ジュリア集合)を持っているので、ランダムにするとますます系全体がカオス的になるのかと思われがちだが、私は、そうではなく、反対にほとんどの場合で複数の写像たちがまるで互いに互いの欠点を打ち消しあうかのように協力しあって平均的システムのカオスを消滅させてしまうこと(協調原理)を示した。また、ある状況下でその極限状態に現れる複素平面上の特異関数と呼ぶべき新しい対象物を詳しく研究した。また、システムの安定性や分岐についても詳しく解析した。特に、安定なシステムの空間がシステム全体の空間の稠密開集合を含むことを示した。また、極限状態への移行は、ヘルダー連続関数を初期関数とした場合には指数関数的に早いことも示した。また、極限状態に現れる「高木関数の複素平面上版」のレギュラリティなども研究した。これらの結果は数学のほか物理学のカオス理論の研究者にとっても大変にインパクトを持つものとなった。得られた結果は、アメリカで行われた国際研究集会や、国内のいくつかの研究集会で発表した。
|