今年度はFermi-Pasta-Ulam格子モデル(以下FPUと略記する)の多パルス解の安定性について研究した。FPUの孤立波は左右どちらの方向にも伝わるものがあり、孤立波がエネルギー汎関数の極小点にならないという点である種のbidirectionalな水面波方程式と共通の性質を持つ。FPUのパルス解については、1960年代に既に多くの数値シュミレーションがなされ、完全可積分系の戸田格子の場合には、逆散乱法により多ソリトン解が求積されていた。しかしながら、FPUの1パルス解が進行波解であることがわかったのは'94年であり、1パルス解の安定性はFriesecke-Pegoに('99-'04年)に偏微分方程式の手法を応用して厳密に定式されたばかりである。 FPU方程式のパルス解は保存量の臨界点として特徴づけることが出来ないため、安定性を示す鍵の一つは、解のうちパルスの部分とその他の振動しながら減衰する部分の相互作用を表す伝播評価を示すことにある。これについては、昨年度からの研究で得られた重み付き空間における多パルス解の線形安定性が有用であったが、使用した重み付きの空間ではパルスの前方にある擾乱が大きく拡大されるために、直接FPU方程式の解に適用すると様々な項が発散してしまう問題点があった。 今年度の研究では、FPUを異なる相互作用に記述される幾つかの部分に分解し各要素ごとの擬似的なエネルギー保存則や要素間でエネルギーの流れる様子を記述するvirial評価を組み合わせることで多パルス解の安定性を証明することができた。
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