研究概要 |
浅水波を記述するKP-II方程式のline solitonの安定性について研究した.KP方程式は波の横方向への緩やかな変化を取り入れるように,KdV方程式を空間変数2次元の方程式に拡張したモデルであり,特に表面張力の効果が無視できる場合を記述するモデルをKP-IIとよぶ. line soliton解はKdV方程式の1-soliton解と同様に,KP-II方程式の保存則の臨界点となるが,KP-II方程式のHamiltonianはハミルトニアンはKdV方程式の場合と異なりその主要部が不定符号であるため,line-soliton解のモース指数は無限大になる.従ってGrillakis-Shatah-Straussのように方程式の変分構造を利用した方法は適用できず,関数解析的なアプローチでは安定性の証明がなされていなかった.本年度のTzvetkov氏との共同研究で,$L^2(R_x\times T_y)$のクラスでline solitonの安定性を証明した.証明のアイデアはMiura変換により,KP-II方程式のline-soliton,mKP-IIのkink解とKP-II方程式の$0$-解を結びつけ三者の安定性が同値であることを示したことである. この研究はMerle-Vega('03)のKdV1-solitonの$L^2$-安定性をより洗練させたものになっており,multi-solitonの安定性も同じ方法で直接証明できると期待される. Miura変換は可積分系の方程式の解を結びつけるBacklund変換の一種であるが,Pelinovskyとの共同研究でBacklund変換を用いて一次元非線形シュレディンガー方程式の1-soliton解の安定性が0-解の安定性と同値であることを証明し,結果として1-soliton解の$L^2$-安定性が証明できた.一次元非線形シュレディンガー方程式はAKNS系の代表例であり,今後他のモデルへの応用も期待できると思っている. その他に,離散非線形シュレディンガー方程式の研究をPelinovskyと共同で行い,定常波解の漸近安定性を従来(7次)よりも低い冪(5.5+0)に対して証明した.
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