本年度の研究を通して、相転移現象の解析に対する幾何学的な手法の予想外の有効性が明らかになった。具体的には、以下のことが理解された: 物質の熱力学的な変数を変化させた時にどのようにしてマクロな相転移現象がミクロな相互作用の結果として現れて来るのかを説明するのが平衡統計力学の一つのトピックになっており、数学的にはこの問題は、分子やスピンなどの相互作用を記述するポテンシャルを与えて、それに基づきエントロピーや磁化等の熱力学的な量を定めて、粒子数が無限大の極限におけるそれらの量の発散や不連続性を解析することとなる。 相転移の問題はこれまで主に解析的な手法を用いて研究されてきたが、最近になってこの問題を幾何学的な視点から捉え直す試みが始まっている。そこでの議論では、与えられたポテンシャルに対する相空間内の等エネルギー曲面の幾何学的性質の「大きな」変化が様々な熱力学的量の発散や不連続性の起源になっているのではないかと推測されている。 本研究では、この様な相転移に対する幾何学的な視点からのアプローチを研究し、傍証として、genericな最近接相互作用については、任意のシステムサイズに対しエネルギー関数がモース関数になることが明らかになった。
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