研究概要 |
本年度は非線形拡散項を伴うLotka-Voltrra型競合モデルの解析をおこなった.これは数理生態学分野における,2種の生物種の生存競争をモデルとする.とくに生物種の棲分け現象を数学的に説明することを目指して,非線形拡散の効果を入れる.提唱者の名前にちなんでSKTモデルとも呼ばれ,個体数密度をu,vとすると,SKTモデルは (1)u_t=Δ[(1+αv+γu)u]+u(a-u-cv),v_t=Δ[(1+βu+δv)v]+v(b-du-v) で与えられる.ここでa,b,c,dは正定数,α,β,γ,δは非負定数であり,境界条件と初期条件をおいて考える.主として扱ったテーマは,対応する定常問題の正値解が作る解集合の構造を明らかにすることである.(1)の交差拡散係数α,βのうち,βのみが正であると仮定する.交差係数の効果を研究するために,定常問題を (2)Δu+u(a-u-cv)=0,Δ[(1+βu)v]+v(b-du-v)=0 に限定して考える.数学的にも、生態学的にも興味があるのは(2)の正値解である.正値解の存在については,ある程度知られているものの,解集合の構造については満足な情報は少ない.手がかりを得るために,βを無限に大きくすることにより,(2)の正値解が生成する極限問題を考察することにも意義がある.空間次元が5以下で同次Dirichlet境界条件の場合,正値解(u,v)について,β→∞のときβuは有限にとどまり,(βu,V)の極限関数は次の問題の正値解(w,v)に限られることを示した. (3)Δw+w(a-cv)=0,Δ[(1+w)v]+v(b-v)=0 生態学的に述べると,βが十分大なる時には,Dirichlet条件下では棲み分けは期待できないことを意味する.これは同次Neumann条件の場合との大きな相違である.
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