ブラックホール磁気圏では電子と陽子からなる『通常プラズマ』と電子と陽電子からなる『対プラズマ』が混在すると考えられる.ブラックホール磁気圏のプラズマの理論的研究はこれまでさまざまな手法を用いて行われてきたが,これらのプラズマの違いを考慮に入れてた研究はほとんどない.それはブラックホール磁気圏プラズマを最も簡単な近似,理想一般相対論的電磁流体力学(理想GRMHD)を用いているためである.さらに電気抵抗を考慮した抵抗性GRMHDの標準方程式を用いてもその違いは現れない.本研究課題では一般相対論的2流体近似から再検討し,通常プラズマと対プラズマの振舞いの違いを明らかにした.そのために一般相対論的2流体力学近似から『一般化されたGRMHD方程式」を導いた.通常プラズマと対プラズマの一般化されたGRMHD方程式を比較することにより,その振る舞いの違いが明らかにすることができた.それによると,極端に小さいスケールや非常に時間変動の早い場合でない限り,その違いは熱起電力とホール効果のみである.ホール効果は対プラズマでは現れないのに対し,通常プラズマでは無視できない可能性がある.熱起電力については複雑で,電子と正に帯電した粒子との温度差による.具体的には,楕円銀河M87の活動中心核の超巨大ブラックホールや銀河系中心Sgr A*の巨大ブラックホールのまわりのプラズマではホール効果は無視できる.しかし,ガンマ線バーストやX線連星系のブラックホールではホール効果が無視できなくなる可能性がある.また,熱起電力についてはいずれの場合も古典的電気抵抗の効果よりも大きな値となる.しかし,電気抵抗は磁気リコネクションにより値が小さくても大きな影響を全体に及ぼす可能性があるが,ホール効果や熱起電力ではそのような効果は知られておらず,今のところ対プラズマと通常プラズマに大きな振る舞いの違いはないと考えられる.
|