本研究は、銀河系で最古の天体である金属欠乏星の化学組成を手がかりに、rプロセス元素の起源を特定すると共に、我々の銀河系の形成史を明らかにすること目指している。金属欠乏星のrプロセス元素の化学組成比は、非常に大きく分散することが知られている。その解釈の一つは、(a)形成初期の銀河系では、超新星爆発の放出物が銀河内でまだ一様に混合していなかったというものである。この仮説に従えば、rプロセス元素の主な起源は太陽の8~10倍程度の質量の超新星爆発になることを、研究代表者はこれまでに示している。 これに対し本研究では、金属欠乏星の化学組成に分散は(b)銀河系が星形成史の異なる綾小銀河の衝突・合体によって形成されたことを反映する、という新たな仮説を提案する。本年度は、まずこれまでに開発してきた我々の銀河系の非一様化学進化モデルを拡張し、様々な形態の銀河に対応するモデルに適用した。さらに、銀河系近傍にある矮小銀河の観測データを用いて、矮小銀河の規模による星形成史の違いを検討した。その上で、銀河系ハローがこれらの銀河の集積によって形成された場合の化学進化モデルの開発を行った。 近年注目されているrプロセスの起源の有力候補には、超新星爆発以外に、中性子星同士の衝突・合体が挙げられている。本研究で開発した銀河進化モデルの初期結果から、(b)の仮説に従えば、中性子星の衝突・合体は、rプロセスの起源となり得ることを示した。星の元素合成論からは、この中性子星の合体の方が超新星爆発よりもむしろrプロセスを起こす環境として適していると言われている。しかし、従来の銀河系の化学進化モデルでは、中性子星の合体説では金属欠乏星の化学組成の分散を説明できないと言われてきた。本年度の成果はこの矛盾を解決できる可能性を示したことになり、いまだに不確定なrプロセスの起源の解明へ向けて一歩踏み出す結果となった。
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