本研究の目的は、銀河系ハローにある金属欠乏星の化学組成を手がかりに、我々の銀河系の化学進化の観点からrプロセス元素の起源を明らかにすることである。金属欠乏星の観測的特徴として、rプロセス元素の化学組成比が非常に大きく分散することが知られている。この解釈として、(a)個々の超新星爆発が誘発する星形成と共に銀河系が形成されたという仮説と、(b)星形成史の異なる様々な規模の倭小銀河の衝突・合体によって銀河系ハローが形成されたという仮説が考えられる。これまでの本研究の成果では、もし銀河の形成過程が(a)の仮説に従うならば、rプロセスの起源は太陽の8~10倍程度の質量の星の超新星爆発にあることが示唆されていた。しかし、近年の元素合成の研究から、rプロセスの起源は超新星よりもむしろ中性子星の合体に可能性があることが議論されている。 そこで、特に平成22年度は(b)の仮説に従った銀河進化モデルを構築し、rプロセスの起源として、中性子星の合体の可能性について検討した。中性子星の合体には時間がかかりすぎるため、(a)の仮説の場合は、観測よりも高い金属量で化学組成比の分散が現れることが指摘されていた。しかし、本研究によって、我々の銀河系ハローが様々な星形成率に従って進化した綾小銀河の集合体と考えれば、予測されるrプロセスの化学組成比の分散は、観測と矛盾しないことが示された。この結果は、rプロセスが中性子星の合体によって起こるという仮説を強く支持する結果となった。
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