研究概要 |
一般相対論における近似(遅い運動+弱い重力場)は,形式的には光速度(の2乗)の逆数での展開であり,ニュートン重力に対する1次の補正をポストニュートン近似(PN近似)とよぶ.そのレベルで,重力の修正理論をパラメタ表示で記述する定式化が知られており,パラメトライズド・ポストニュートン(PPN)とよばれる.従来のPPN法の困難を克服した,大スケール側と小スケール側の一方(あるいは両方)で修正を受けた重力理論モデルを近似するための手法を検討・開発する.この手法を用いて,今後の高精度観測で,新しい理論の兆候をどうやって検出するのか,少なくともどの精度で制限できるのか,に関して定量的な議論を統一的に行うのが,主たる目的である. 初年度は,重力理論研究の重要なツールである重力波に関して研究した.特に,逆問題の観点から行なった.これは非常にユニークであり,Phys.Rev.Lett.にも掲載された(Torigoe et al.PRL2009).研究内容は,重力波の波形が観測できた場合,パラメタフィットではなく,さまざまな波源のモデルに対して唯一に特定が可能かどうか調べた事である.精度の低い波形観測では,2体とある3体の波源が縮退して区別できない点を指摘した。これは,研究者の間では認識されていなかった事で,重要である.さらに重要な点は、この縮退を解くには,高次のモーメントの理論計算予想とそれに対応する高精度の観測が必要である事を示したことである.以上は,重力波を用いて重力理論の検証を行なう際にも有用といえる.さらに,この数値計算に基づいた研究を発展させて,ラグランジュ軌道にある3天体からの重力波の解析的な表式をはじめて導出して,この3天体系のチャープ質量および、軌道サイズの時間発展を明らかにした.これによって,上のPRL論文の内容をより数学的に厳密に証明した(Asada, PRD 2010).
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