研究概要 |
本研究では,重イオン衝突(核子あたりの入射エネルギー数十から数百MeV程度)や中性子星・超新星爆発などにおいて実現する核物質の動的現象と熱力学的性質を解明するため,微視的理論による研究を推進することを目的としている.特に,反対称化分子動力学(AMD)を用いて,核子多体系の動力学計算と統計計算の両方を実施し,統一的な理解を目指す.平成21年度に実施した研究の概要は以下のとおりである. 陽子中性子の特徴的な運動の解明と状態方程式との関連を探るため,重イオン衝突における陽子・中性子放出やフラグメントの陽子中性子比が決定される機構をAMD計算を分析することにより調べた.特に,イタリアのM.Colonnaによる確率的平均場計算の結果と比較することにより,前平衡過程での核子放出を十分に理解することが量要課題であることがわかった. AMD計算の高速化が可能なSkyrme力のコードを完成し,核衝突への適用可能性を検証した.核子あたり数十MeVでは従来のGogny力とほぼ等価な結果を得たが,数百MeVでは問題が生じ,今後,適切な運動量依存性をもつ密度汎関数を構築する必要があることが確認できた. フランスの共同研究者(古田,Gulminelli)との議論を進め,AMDを中性子星や超新星爆発に現れる核物質に適用するための理論的準備がほぼ完了し,計算コードの一部を超並列計算向けに改良した.また,様々な状況下での核物質の圧縮・膨張を研究する一環として,その小振幅極限である原子核の単極子振動をAMD計算により研究し,小振幅から大振幅までの統一的記述のための基盤ができた.
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