研究概要 |
本研究では,重イオン衝突(核子あたりの入射エネルギー数十から数百MeV程度)や中性子星・超新星爆発などにおいて実現する核物質の動的現象と熱力学的性質を解明するため,微視的理論による研究を推進することを目的としている.特に,反対称化分子動力学(AMD)を用いて,核子多体系の動力学計算と統計計算の両方を実施し,統一的な理解を目指す.平成22年度に実施した研究の概要は以下のとおりである.陽子中性子の特徴的な運動と状態方程式との関連を探るためには,前平衡過程での核子放出やクラスター・フラグメント生成を十分に理解することが必要である(前年度の成果).そこで,反応の全系の核子とエネルギーが核子・クラスター・フラグメントへどのように分配されるかに着目して分析した.クラスター生成過程やフラグメントの運動量ゆらぎの効果が重要な役割が明確になった.また,一部の反応系の実験値は,エネルギー保存の観点から単純には再現することは不可能であり,今後イベント選択の詳細を考慮するなどの必要があることもわかった. AMDを中性子星や超新星爆発に現れる核物質に適用するための理論的定式化を完成させた.大きな系(V_<super>)に周期的境界条件を課して完全な反対称化を行う.相互作用のない系の計算を実施してV_<super>に対する依存性を調べ,反対称化の及ぶ距離を求めたところ,飽和密度程度では波束幅の約10倍であることがわかった.このことから,V_<super>は有限の大きさで十分であり,その値の選択の指針が決まったことになる.また,数値計算を容易にするため,V_<super>をより小さな単位で分割して波束の配置に周期性を仮定する方法も確立した.実際上は,空間の各方向に2分割する程度で数値計算が実行できると見積もることができた.
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