本研究は、弦理論の非摂動論的定式化の一つである「弦の場の理論(=String Field Theory=SFT)」が持つ本質的/原理的な諸問題・課題を包括的に研究し、SFTがこれからの弦理論の新しい物理を切り開く突破口を与えることを目指すものである。平成22年度の実施計画では、21年度からの継続として「背景時空に依らないSFTの構築」と「SFTにおける物理量の一般的構成」を目標に挙げた。これらの課題もある程度の進展を見せつつあるが、22年度は「SFTにおけるタキオン凝縮解」と関連した別の重要なテーマである「場の理論におけるソリトン解の集団座標の相対論的量子化」に関して21年度から引き続き研究を行い、顕著な進展が得られた。すなわち、多くの場の理論にはソリトンと呼ばれる、有限な空間的広がりと有限なエネルギーをもった古典解が存在し、これらは並進や回転といった「集団座標」をもっており、それを量子化することによってソリトンの運動が記述される。弦理論における重要な概念であるD-braneも、SFTにおけるソリトン解に対応している。この集団座標量子化、特に自転運動の集団座標量子化は、従来運動が十分ゆっくりである場合のみ有効であるか、あるいは、ad hocな議論に基づいたものしか存在しなかった。本研究代表者は、大学院生の菊池徹氏との共同研究により、運動が相対論的な場合にも有効な、ソリトンの集団座標量子化の一般論を展開し、これをSkyrmionと呼ばれれる、バリオンを表すソリトンに応用して様々な物理量に対する相対論的補正を与えた。この成果は二編の論文として発表し、Physical Review DおよびProgress of Theoretical Physicsに掲載された。
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