この数年グラフェン(graphene)と呼ばれる炭素の一原子層からなる新物質の物性に実験・理論両面から強い関心が向けられている。グラフェンは質量ゼロのディラック粒子のように振る舞う電子を伝導帯と価電子帯にもつ"相対論的な"2次元電子系であり、"相対論的"な量子現象を身近な物性系で検証・研究する希有な機会を提供する。このような状況を踏まえて、研究代表者は平成21年度には、相対論的場の量子論に固有な真空の量子的な性質やゲージ量子異常に由来すると考えられるグラフェンの諸特性を探求した。その内容は以下の通りである。 1.磁場中に置いたグラフェン二層系には(カイラル量子異常と密接に関連する)殆ど縮退した特徴的な擬ゼロ・モード準位が現れる。研究代表者は以前にこの準位の微細構造が試料内電場あるいは電流により制御できる特性を持つことを指摘した。今回は電子間相互作用と外場の影響を考慮に入れて、この擬ゼロ・モード準位には量子的なコヒーレンスや擬スピン波(集団励起)などの豊かな力学的内容があることを明らかにする論文を発表した。 2.赤外光を用いてグラフェンのランダウ準位間遷移を観測する実験では、グラフェンに固有な相対論的なスペクトルが確認されているが、同時に小さい有意なずれも観察されている。通常の量子ホール系と異なりグラフェンにはKohnの定理が適用できないので、このずれは多体効果の現れとも考えられる。このずれを電子間相互作用による速度の繰り込みの効果として説明し、定量的な考察を加えた論文を発表した。
|