研究課題
国際会議の講演の準備の過程で、核子スピンのゲージ不変な完全分解が可能かというスピン物理の20年来の懸案の解決の糸口をつかんだので、当初の研究目的とは多少ずれるのであるが、その解決に精力を注ぐことになった。核子スピンの構成子への分解としては、1990年に、JaffeとManoharが提唱したものが広く知られているが、その問題点は、クォークの固有スピンを除く他の3項のそれぞれがゲージ変換の下で不変でないという事実であった。一般に、観測量はゲージ不変でなければならないと信じられているので、これは、Jaffe-Manohar分解の大きな問題点と考えられていた。一方、1997年の有名な論文でJiが提唱した分解では、クォークの全角運動量の方は、固有スピンと軌道核運動量の寄与にゲージ不変に分解できるのであるが、グルオンの全角運動量のゲージ不変な分解は存在しないと結論された。どちらを信じるべきかが、理論屋、実験屋の間に、長い間混乱を引き起こしてきたのである。この1年程の私の研究は、この論争に決着をつけるものである。これによれば、核子のスピンをクォークとグルオンの固有スピンと軌道角運動量の寄与にゲージ不変に完全分解することは実際可能なのである。それのみならず、その各項の寄与を、純粋に実験的に決めることができることを、初めて明確な形で証明することに成功した。これによって、何と、相対論的な束縛状態(複合粒子)である核子のスピンの起源を、実験を通じて曖昧さなく完全に理解できる基礎が与えられたことになる。一方、当初の研究目的である、「パートン分布の荷電対称性の破れと海クォーク分布のフレーバー非対称性」に関しては、目標達成に必要な理論式の導出は既に終了し、数値計算に必要なプログラムの開発も8割方完成したので、本年度中に結果を出し論文にまとめる予定である。
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Physical Review D
巻: D83 ページ: 014012/1-16
In proceedings of "The 19th International Spin Physics Symposium", Journal of Physics
巻: (印刷中 未定)
European Physics Journal A
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