研究概要 |
これまで大阪大学核物理研究センターや放射線医学総合研究所での実験で我々が培ってきた陽子弾性散乱から原子核の密度分布を抽出する方法を応用して、ドイツ重イオン公社(GSI)の重イオンシンクロトロンにおいて新たな中重核の不安定核で陽子弾性散乱実験を行い、本格的な不安定核で密度分布を初めて抽出しようとしている。 1)検出器の組み上げ これまで我々が日本で開発してきた不安定核弾性散乱測定装置をドイツGSIに輸送した。輸送の手続き、通関手続きに時間を要し、実際に現地で装置を運送業者より受け取ったのは8月1日であった。それ以降急ピッチでGSIスタッフと共同で設置、アライメント行い、回路調整をして8月20日からの準備実験に間に合わせた。 2)準備実験 アルゴン40ビームを用いて、固体水素標的およびポリエチレンからの陽子弾性散乱を8月20日より28日までテスト的に測定した。実験装置を設置した場所は9月の第2週より別の実験に使用するので実験終了後急遽撤収作業に入った。このときの経験は本実験に向けて準備作業にとって非常に参考になった。 3)本実験 平成22年1月に行われる予定であったが、現地GSIの加速器運転の都合で12月になって急遽平成22年3月下旬に延期された。そのスケジュールに合わせて平成22年2月初めより実験装置の再組上げ、アライメント、回路調整、水素標的の製作に入った。途中固体水素標的製作用冷凍機の故障や、GSI提供の高圧電源ノイズのトラブルなどあったが、現地のスタッフの協力で実験の準備は順調に進み、3月18-21日に行われたNi58ビームによるテスト実験は成功し、3月24日から4月12日まで本実験を行った。本実験では中間エネルギーニッケル66と70の不安定核ビームによる固体水素標的からの陽子弾性散乱を測定に成功した。実験結果の整理と解析は平成22年度にも継続して行われる。GSIの加速器で生成される不安定なニッケルビームと固体水素との散乱でニッケル66,70原子核の密度分布が抽出できると期待している。
|