動的自己核偏極(DYNASP:DYnamic NucleAr Self Polarization)はDyakonovらが予言した現象で、InPなどの化合物半導体の電子を直線偏光レーザーで伝導帯に励起すると、伝導電子と原子核の超微細相互作用により、数Kの臨界温度以下で大きな核偏極が現れるというものである。この理論を、円偏光レーザーで励起し、伝導電子を偏極させた場合に拡張し、それによって、伝導電子の偏極が核偏極に与える影響を調べた。その結果、伝導電子が偏極した場合、臨界温度以上でも核偏極が得られることがわかった。また、円偏向の向きで、原子核の偏極を制御できることがわかった。さらに、臨界温度以下で円偏向の向きを変化させると、核の偏極度がヒステリシス由線を描くことが明らかになった。本現象は、単に原子核での高偏極を得る手法にとどまらない。化合物半導体のスピンを効率よく偏極・制御する方法としても適用できるので、量子コンピュータへの適用やスピントロニクスにおいて電子スピン緩和を抑制する手法などとしても有用かもしれない。上記理論的考察をJ.Appl.Phys.誌に論文発表し、その論文はVirtual Journal of Nanoscale Science & Technologyの2011年July25号に選定された。 一方、DYNASPは、理論的な予言はされているが、実験的な検証がなされていない。我々は、これまで本現象を検証するために実験準備を進めてきた。しかしながら東北地方太平洋沖地震の影響で、予定していたInP試料の原子炉での放射化ができなくなった。そこで、実験の方針を変更し、放射化していないInP試料を用い、パルスNMRの手法を用いた実験を行なうことにした。まずは、パルスNMRの手法を確立するために、H-1を用いのパルスNMRの観測を行い、パルスNMRシステムが正常に動作することを確認した。
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