研究概要 |
超イオン導電体Agβアルミナの単結晶を用いた偏光ラマン散乱実験を行った。この実験から格子振動の基準モードの帰属とその固有エネルギーを求めた。これよりイオン間相互作用ポテンシャルを174×174の動力学行列計算から見積もることに成功した。これは安定サイトでのイオンが感じる正確なポテンシャル曲率を与える。つぎに,求めたイオン間相互作用ポテンシャルから分子動力学計算を行い,結晶全体の圧縮率を計算することでポテンシャルの深さを最適化した。格子振動の固有エネルギーと結晶の圧縮率をセルフコンシステントに一致させ,Agβアルミナ結晶格子模型の精度を上げることに成功した。 本研究目的は,超イオン導電体AgβアルミナにおけるAgの高速拡散とAg-Ag多体相互作用の相関の解明である。本研究成果であるこの格子模型を基礎として,3種類のAg-Ag間のイオン間相互作用を導入した分子動力学計算を行った。結果,Agの隣のサイトへのジャンプのためのポテンシャル障壁の起源について,新たな概念を発見した。すなわち,Agイオンの拡散のし易さは,その周囲を構成するアルミや酸素が支配しているものと考えられてきたが,Ag-Agどおしの反発エネルギーが弱いほどポテンシャル障壁が低くなり,高速拡散が実現することを見いだした。この知見の重要性は,将来の環境エネルギー技術の一つである燃料電池,大規模夜間貯蔵用NAS電池などへ発展するための新物質の設計指針となりうるものである。さらに、超イオン導電体の特性の一つである「混合アルカリ効果」のメカニズムの解明にも派生すると思われる。
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