研究概要 |
本研究目的は,超イオン導電体AgβアルミナにおけるAgの高速拡散とAg-Ag多体相互作用の相関の解明である。前年度において偏光ラマン散乱実験により,Agβアルミナを構成するイオン間相互作用ポテンシャルの決定に成功した。この研究成果を基礎として,平成22年度は分子動力学計算を行い、Agの自己拡散係数の温度依存性を詳細に調べ次のことがわかった。(1)Agイオンが互いに反発することで,つぎつぎとイオンが動き出す。(2)Ag-Ag間反発エネルギーが大きいと,互いに押さえつけ合い動けなくなる。逆に反発エネルギーが小さいと,イオンの動きはあたかも液体のように泳動する。(1)と(2)の結論は互いに矛盾しているようであるが,イオン導電体における活性化エネルギーの起源を解明する手がかりとなった。イオン導電体における協同的運動とAg-Ag間多体相互作用の役割の重要性を解析し,Sato and Kikuchiの理論モデル(1971)、Ngaiのカップリングモデル(1993)、X線散漫散乱実験から主張された可動イオンのクラスター化(1976)をもとに,(1)の結果を「静的」活性化エネルギー,(2)の結果を「動的」活性化エネルギーと大別した新規物理概念を発見した。本研究成果は学術雑誌J.Phys. : Condensed Matt.に投稿中である。 この新規概念は,超イオン導電体Agβアルミナのみに適用されるだけでなく,数多くのイオン導電体に広く当てはまるものである。したがって,将来の環境エネルギー技術の一つである燃料電池,大規模夜間貯蔵用NAS電池などへ発展するための新物質の設計指針となりうるものと期待している。
|