研究概要 |
超イオン導電体は,室温で高いイオン伝導度を示す固体であり,リチウム電池や燃料電池をはじめ様々な電池などに利用されている。βアルミナに代表される超イオン導電体の異常に高いイオン伝導性については,可動イオン間の多体効果,可動イオンと格子振動との結合,特殊な電子状態など,様々な要因が提案されてきたが,単純化した理論計算以外には研究例は極めて少ない。そこで,実体的な物質の物性測定結果に基づいたうえで,計算機科学を用いて多体効果を含むイオンの運動を可視化することを行った。まずはじめに,単結晶Agβアルミナにレーザー光を照射し,得られたラマンスペクトルから,結晶を構成するイオン間相互作用ポテンシャルの決定に成功した。この研究成果をもとにAgβアルミナの結晶格子模型をつくり,分子動力学計算を行うことで超イオン導電体における可動イオン間多体効果の寄与について,次の結果を得た。(1)Agイオンが互いに反発することで,つぎつぎとイオンが動き出す。(2)Ag-Ag間反発エネルギーが大きいと,互いに押さえつけ合い動けなくなる。逆に反発エネルギーが小さいと,イオンの動きはあたかも液体のように泳動する。(1)と(2)の結論は互いに矛盾しているようであるが,イオン導電体における活性化エネルギーの起源を解明する手がかりとなった。本研究の結論として,イオン拡散の活性化エネルギーには,周囲の原子の配置に依存して決まる『静的』活性化エネルギーと,イオンが移動することで発生する『動的』活性化エネルギー,2つの要因から成り立つという新規概念を提案した。 この新規概念は,超イオン導電体Agβアルミナのみに適用されるだけでなく,数多くのイオン導電体に広く当てはまるものである。したがって,将来の環境エネルギー技術の一つである燃料電池,大規模夜間貯蔵用NAS電池などへ発展するための新物質の設計指針となりうるものと期待している。
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