X線・中性子線回折による散漫散乱強度測定を行い、熱振動効果を取り入れたリートベルト解析から「熱振動における原子間の相関効果」の原子間距離および温度依存性を決定する。この相関関数から力定数を求め、力定数と結晶構造モデルからフォノンの分散関係を見積もることを目的とする。まず、ローター型の高出力粉末X線回折装置、原子炉に設置された中性子回折装置(日本原子力研究開発機構に設置されているJRR-3のHRPD)を利用し、イオン結晶KBr、BaF_2、半導体Ge、金属Cuなどの散漫散乱測定を行った。熱振動の相関効果を取り入れたX線・中性子回折散乱強度式を、リートベルト解析に組み込んだプログラムを開発し、これを利用して熱振動の相関効果の値を決定した。相関効果の値から物質の力定数を導出する過程において、EXAFSで利用されている非調和ポテンシャルの方法を使用し、EXAFSにおける「ずれ」と散漫散乱から導出される相関効果の値との関係を定式化した。 今年度は、KBrについて相関効果の値と力定数との関係を詳細に検討した。力定数の原子間距離依存性を取り入れ、Mathematicaを利用してフォノンの固有値および固有ベクトルを導出する試みを行った。これまでに報告されている中性子非弾性散乱によるKBrのフォノン分散測定と散漫散乱の解析から得られた結果を比較した。散漫散乱強度測定から得られる相関効果の値を用いたコンピュータシミュレーションによる分散関係は、中性子非弾性散乱によるフォノンの分散関係をほぼ再現できることがわかった。
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