X線・中性子線回折測定において生ずる散漫散乱強度の振動変化を解析し、熱振動における原子間の相関効果を決定する。この相関効果から原子間の力定数を求め、力定数と結晶構造からフォノンの分散関係を導出することを目的とする。これが可能になると、回折測定からフォノンの分散関係、体系の状態密度、結晶中の音速や試料の比熱などの物性値が推定できることになる。今年度に中性子回折実験として、日本原子力研究開発機構JRR-3およびオーストラリア原子力研究所(ANSTO)などに設置されている回折装置を利用し、イオン導電体Cu_2Seやイオン結晶Ag_2Oなどの散漫散乱強度について温度依存性を測定した。これら回折強度のリートベルト解析から、結晶の構造解析を行い原子位置および熱振動パラメータを決定した。現在、これらの結果を用いた散漫散乱強度解析を試みている。Ag_2Oの解析結果は、平成23年7月にワルシャワで開催されるSSI-18で招待講演を行う際に発表する。 昨年度に中性子回折測定を行った、半導体Geおよび金属Cuについて、散漫散乱強度の解析から熱振動の相関効果の値を決定した。これらの値から原子間の力定数を導出する等の解析を行い、論文を今年度に発表した。散漫散乱強度測定から得られたGeの力定数を用いてコンピュータシミュレーションで計算されたフォノン分散関係は、中性子非弾性散乱によるフォノンの分散関係をほぼ再現できることがわかった。熱振動の相関効果の値は、温度の減少とともに、また原子間距離が大きくなるに従い小さくなる。原子間距離が5Å程度で相関効果の値はほぼ0となる。また、イオン結晶の力定数は、半導体や金属の力定数に比較して小さな値となる。
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