低温強磁場における高易動度GaAs/AlGaAs2次元電子系は量子ホール効果をはじめとする顕著な量子効果が現れるとともに電子スピンおよび核スピンに関連した空間分布を伴う様々な物理現象の舞台となっている。本研究では量子ホール状態での電子スピンの空間分布について調べるため、光磁気カー回転計測による低温・強磁場中でのイメージング計測系とその要素技術の開発を行っている。 平成21年度は2次元電子系1層の電スピン偏極を光磁気カー効果を用いて高感度・高分解能で検出し、その空間分布を測定するシステムを製作した。このスピン偏極イメージングを通して、試料内の0.1%以下のごく僅かな電子濃度ゆらぎを可視化することが可能であることを示した。また、試料に電流を流すことでホール効果によるポテンシャル分布が生じ、これにより生じた僅かな電子分布の変化がイメージング可能であることを示すとともに、量子ホール電流の空間分布の計測にも活用できることを実証した。 さらに、GaAs/AlGaAs量子ホール系の光磁気カー回転(励起)スペクトルの全貌を調べた。磁場下のGaAsの共鳴励起波長では、スピン選択光吸収による磁気円二色性による信号が支配的で、このときのカー回転スペクトルは単純なランダウ・ファンではなく、量子ホール系特有の多体効果による整数占有数でのスペクトル先鋭化や分裂が顕著に現れた。また、本研究のイメージングで用いている励起波長では、量子ホール電子系のスピン偏極度を反映したカー効果の信号であることを実験的に確認した。
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