研究概要 |
岩石・鉱物の空隙は物質の移動経路や吸着・脱離の場として機能する。環境問題,特に放射性廃棄物の閉じ込め処分においては,種々の大きさの空隙について詳細な知見が必須である。本研究課題では,近年エキゾチック粒子として産業界で注目されている陽電子(電子の反粒子)をプローブとした陽電子消滅法を初めて鉱物・岩石に適用することにより,水銀従来の手法では検出できなかった微視的領域の空隙に初めて焦点を当てる。初年度に当たる今年度は,陽電子計測システムの立ち上げに加えて,フィールドワークを含めた岩石・鉱物試料の調達・調整を進めた。調達した試料に対して,XRD測定,電子顕微鏡観察,陽電子寿命測定を行った。 (1)岩石・鉱物試料調整 様々な地域から岩石・鉱物試料を調達・調整した。切削,研磨,ケミカルエッチングを行い,電子顕微鏡観察のための薄片,陽電子消滅実験のための平板を作成した。 (2)X線回折(XRD)測定 XRD測定の結果,ほとんどの鉱物試料は比較的高い結晶性を示すことがわかった。 (3)走査型電子顕微鏡(SEM)観察 試料表面の形状,マイクロクラックの状態を走査型電子顕微鏡観察により行った。SEM観察で確認できたものはクラックなどで,ミクロ孔,メソ孔領域の空隙は観察困難であった。 (4)ミクロ孔の評価 新たに立ち上げた陽電子計測システムを用いて様々な鉱物・岩石中のミクロ孔領域の空隙評価を行った。オパールと堆積岩について,ナノ空孔に対応する陽電子寿命が有意に検出された。いずれの試料についても得られた陽電子寿命は約1.6nsであり,空隙半径にして約0.5nmに相当する。オパールとXRD測定でオパール相が同定された堆積岩試料についてだけナノ空孔が検出されたことは,オパールがナノ空孔を介した物質移行に重要な役割を果たすことを示唆している。
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