研究概要 |
最終年度に当たる平成23年度は,ナノ空孔を介した物質移行を定量するため,オングストロームスケールの層間を持つサポナイト鉱物試料について,ポジトロニウム分光によるナノ空孔計測を引き続き継続し,拡散試験データと併せて総合解析を行った。 1.セシウム拡散試験 塩化セシウム溶液を用いてセシウム拡散試験を推進した。拡散試験後のスメクタイト試料を上流から切り出し,それぞれについて硝酸でセシウムを溶出した。その後原子吸光法によりセシウム濃度の評価を行った。上流からの距離が長くなるにつれて,セシウム濃度は減少した。 2.ポジトロニウム実験 上記と平行して,切り出した試料についてポジトロニウム分光を推進した。層間ポジトロニウム成分,放出ポジトロニウム成分が得られた。層間ポジトロニウム寿命,放出ポジトロニウム寿命,層間ポジトロニウム相対強度,いずれも,上流からの距離に対して有意な変化を示さなかった。放出ポジトロニウム相対強度は,拡散試験データと類似して,上流からの距離が長くなるにつれて減少した。 3.総合解析 拡散試験後の試料について原子吸光法によって得られたセシウム濃度の距離依存性データから,フィックの拡散式に基づき拡散係数が2.0×10-7[cm^2s^<-1>]と見積もられた。ポジトロニウムデータの距離依存性から,フィックの拡散式によって,拡散係数が2.5×10^<-8>[cm^2s^<-1>]と見積もられた。セシウム濃度の距離依存性データから得られた拡散係数はナノ空孔の効果など全てを含んだ全体の拡散係数に相当する。一方,ポジトロニウムデータから得られた拡散係数は,ナノ空孔を介した拡散係数に相当する。二つの拡散係数を比較することにより,ナノ空孔を介した拡散係数が,およそ一桁小さいことがわかった。
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