研究概要 |
本年度当初の具体的研究実施計画の概要は以下の通りであった. 1.結晶化におけるカイラリティ転換について,マスター方程式の形で確率的要素を取り入れて,ゆらぎの役割を詳しく解析する. 2.NaClO_3の実験で存在が示唆された準安定結晶相が,自発的カイラル対称性の破れの機構に新しい筋書きをもたらすかを考察する. 3.結晶表面の荒れた微斜面の緩和過程(具体的にはSrTiO_3の実験)の定量的な理論解析をまとめる.後期緩和過程で実験での時間スケールが異常に長いという問題の解決を図る. 4.成長ステップ前面からゆっくりと遠ざかる粒子供給源をもつモデルのモンテカルロシミュレーションに現れるパターンの粗大化を解析し,粗大化の仕組みを解明する. これらに対する今年度の実績は 1.最も簡単な,クラスター反応のないモデルでのカイラリティ転換の理論的解析ができ,微小系のサイズと転換に必要な時間が比例することが明らかになった(論文準備中). 2.共同研究考による実験の裏付けは進んでいるが,理論的な面では特に進展はなかった. 3.実験の解析によって,緩和過程の全貌が明らかになり,それを要約した論文を投稿した.長時間スケールについての謎は,むしろ局所構造の変化が効いてくる短時間スケールの現象が今のモデルの枠を越えているとして理解できそうである. 4.粗大化の解析は論文として投稿中である、樹枝状成長の準安定性を見出し,ゆらぎと非線形性の競合という一般的な課題があることが認識された. いずれの問題でも,ゆらぎの果たす役割の重要性が明確になってきた.
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