スピントロニクスでは、電子の電荷に加えスピン自由度の積極的な利用によって、これまでにない機能を有するデバイスの実現を狙う。強磁性金属から成る磁気デバイスは、メモリーやセンサーとして既に実用化されている。これらに加えて、より制御性に富む半導体ベースのスピン機能素子の実現は、スピントロニクスのもつ可能性を格段に押し広げるものと期待される。スピン利用を考えるならば、その前提条件として、対象とする系にスピンを注入あるいは生成する必要がある。本研究では、メゾスコピック系に発現するスピントルク効果とそれを利用したスピンカレントのポンピングに焦点を当てる。スピントルク効果によるスピンポンピングはスピン非保存の積極的利用である。電荷カレントを定常的に供給する電池には、電荷保存のため常に正負両極必要である。これに対し、スピンポンプからは定常的にスピンカレントが放出される。すなわち、スピンポンプは単極のスピン電池として動作する。平成21年度においては、反転対称性が破れた2次元電子系に存在するラシュバ型スピン軌道結合に着目した。運動量について線形なこの種の相互作用では、スピントルクはスピンカレントの1次で表現できる。したがって、外部からのスピンカレント注入によりスピントルクが誘起され、連続の式の結論として、系からは発散性のスピンカレントが流出する。生成スピンカレントと注入スピンカレントの偏極は直交しており、電気バイアス設定により電荷カレントの流出はブロックできる。本研究では、スピン偏極リードと接続したラシュバ系における静的スピンポンピングを数値計算により検証し、従来のスピンホール効果に比べ、桁違いに大きな純粋スピンカレントの生成が可能であることを示した。
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