量子スピンホール系では強いスピン軌道相互作用により逆向きスピンを逆方向に輸送するヘリカルなエッジ状態が形成される。この状態は強磁場下の量子ホール系に生成されるカイラルエッジ状態の時間反転対称な合成と見なせる。一般に、ヘリカルエッジ状態は時間反転対称な摂動、例えば非磁性不純物による散乱(非磁気的乱れ)に対してロバストである。しかしながら、時間反転対称性を破る摂動、例えば磁性不純物による散乱(磁気的乱れ)に対してはそうとは言えない。本研究では、磁気的に乱れた量子スピンホール系の電荷・スピン輸送を、非平衡グリーン関数を駆使して詳細に調べ上げ、以下の知見を得た。量子スピンホール系の電荷コンダクタンスは磁気的乱れに極めて鋭敏であり、量子化は熱力学的極限において任意の弱い乱れにより崩壊する。ただし、電荷コンダクタンスの量子化が崩壊してもチャネル両端のスピンコヒーレンスは存続している。一方、スピンコンダクタンスに関しては、特定のスピンバイアス環境のもと(バルクギャップが存続する限り)量子化は維持される。これら対照的特徴は、ヘリカルエッジ状態に許容なスピン反転後方散乱の物理的帰結として理解できる。このタイプの散乱では、電荷フラックスは反転するがスピンフラックスは反転しないからである。 なお、スピンコンダクタンスの量子化は、ヘリカルエッジモードに固有な散乱行列のユニタリティに結びつけられるため、散乱過程の詳細には依存しない。
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