シリコン試料のへき開断面を走査トンネル顕微(STM)観察するためには、まず平坦な{111}へき開面を作製することが必要である。これは基板上に薄膜界面を作製し、そのへき開断面を観察する上においても重要である。大気中で平坦なへき開を得るために、昨年度までに、CZ-Si(111)ウェハー(4mm x 20mm x 0.5mm程度の短冊状)の幅4mm全体に罫書き入れるのではなく、端の1mm程度に罫書き(Si[1-10]方向)を入れ、厚さ0.5mmのウェハー上下(罫書き線から多少離す)を金具で保持し、なるべく保持金具から離れたウェハーの端を押すと、罫書きを入れた鏡面側の罫書きのない領域で、きれいなへき開断面ができる傾向があることを見出した。 本年度は、超高真空中で実際にへき開できるようにホルダーに改良を施し、超高真空STM観察を行った。多くのへき開試料で、へき開(-1-11)断面の中央付近は表面(鏡面)に平行な方向(Si[1-10]方向)に間隔2.9nm程度のスジ状構造が800nm以上の広範囲に渡り作製できることが分かった。また、表面(鏡面)付近はSi[1-10]方向のステップ&テラス構造が多く、裏面(非鏡面)付近は120°回転したSi[0-1-1]方向、Si[101]方向のステップが多く見られた。 金属(Al)蒸着Si(111)試料を本手法にてへき開し、その断面の薄膜界面領域をSTM観察したところ、断面端(表面側)近傍の金属Al領域は界面を挟んで半導体Si領域より数nm程度落ち込んでいた。走査トンネル分光(STS)測定から、金属特有なオーミックなSTS曲線、半導体特有なギャップのあるSTS曲線が界面を挟んだ両側でそれぞれ観察でき、界面に近づくとともにその様相が変化する様が分かった。これらのことは界面領域での電子状態観察が本手法により十分可能であることを示している。
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