研究概要 |
直流を交流に変換する有機サイリスタの原因となる非線形伝導効果と電荷秩序との関連について知ることは,有機誘電体の形成および消失メカニズムを研究する上で極めて重要である。電流に依る電荷秩序融解過程の時定数と再凍結過程の時定数はかなり長く数十msec以上である。この異常に長い時定数は,この電荷に関する誘電性が,実際には格子とも大きくカップルしている可能性を示唆している。これを裏付けるように,電流を流し2倍周期の変調構造が変化することに同期して,格子長が大きく変化している兆候を見いだしている。しかも,電場にたいしての係数は,通常のピエゾ素子の数千倍にも達している。この格子長変化は電流に比例し電流による格子変形効果が観測されている可能性がある。2010年度,本研究ではこの非線形効果のメカニズムを詳しく調べるために,更にもう一種類の有機物質を発見した。この物質は低温電荷秩序が不安定になる。電流印加時にX線超格子実験をおこない電荷秩序に関わる超格子からの反射が消失した。電流に依る非線形効果は,電流を流すことによる非平衡効果であり,もし電流によるジュール発熱効果では絶対にない。もしそうであれば,電荷秩序は観測された様な消失ではなくむしろ安定化する筈である。更にこの物質でも2相の競合が起こっている事を新たに明らかになった。つまり電流による非線形応答は二相競合が本質的である事を明らかにしたと考えている。
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