平成21年度は、アルファヘリックス分子鎖に代表される1次元分子鎖中の励起子の非平衡輸送過程について以下のことを明らかにした。両端において異なる温度の熱浴と結合する分子鎖中の1つの励起子について、量子リウビル方程式に射影演算子法を適用することにより、1励起子分布関数に対する運動論的方程式を得た。この運動論的方程式の時間発展を司る衝突演算子の複素固有値問題を解き、非平衡状況下における衝突不変量を求めた。この衝突不変量に、相関を生成する演算子を作用させることにより、励起子と熱浴、また励起子状態間の相関を含む形式で、リウビル演算子のゼロ固有状態として非平衡定常状態の表現を得た。 この非平衡定常状態における分子鎖のエネルギーの時間変化を求め、非平衡〓寿状態におけるエネルギー流を導き出した。こうして得られたエネルギー流の表現をランダウワー公式の形で書き直した時、透過関数が分子鎖準位の構造に強く依存し熱浴のプランク分布にも依存することを示し、単純な1粒子のポテンシャル散乱によって、非平衡エネルギー流を記述することができないことを示した。 さらに、非平衡定常状態において励起子分極の時間変化として定義される励起子流を求めた。エネルギー流は、励起子と熱浴の間の1次の相関で表される一方、励起子流は2次の相関で表されるため、励起子流はランダウワー公式の形式では表現することができないことを明らかにした。 これらの成果は、日本物理学会、国際研究集会で発表されるとともに、Physical Review B誌に論文発表された。
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