研究課題
2010年度は、アルファヘリックス分子鎖に代表される1次元分子鎖中の励起子の非平衡輸送過程について以下のことを明らかにした。両端において異なる温度の熱浴と結合する分子鎖中の励起子間に相互作用がない場合の非平衡定常状態をリウビル演算子のゼロ固有状態として導き出した。非平衡定常状態を記述する全系の密度演算子は、相関の真空(密度分布)の部分空間の時間発展を司る衝突演算子のゼロ固有状態をまず求め、これに、各次数の相関を発生させる相関の生成演算子を作用することで具体的に求めた。特に、分子鎖の非平衡定常状態においては、密度行列が非エルミートとなることを初めて見出した。さらに、この非平衡定常状態におけるエネルギー流、励起子流の解析を行い、分子準位のエネルギーレベル構造が非平衡定常エネルギー流、粒子流に大きな影響をもたらすことを示し、現象論的なランダウウァー公式の適用限界を明らかにした。これらの結果は、日本物理学会、国際シンポジウムでは講演発表を行い、また、論文としてPhysical Review Eから公表された。さらに、1次元分子鎖内の非平衡定常状態における輸送過程を明らかにする上で、粒子間相互作用の効果を明らかにすることは未解決の重要な問題である。2010年度に、分子鎖中に複数の励起子が存在する系に対し、非平衡定常流に対する励起子間相互作用の効果の研究を開始した。現在までの所、分子鎖内にボース粒子が存在する場合に対して、粒子間相互作用にの結果熱整流効果が逆転すること、また、斥力相互作用が却って非平衡定常流を促進することなどが見出されつつある。この結果は、現在論文にまとめ、発表の準備を進めている。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件)
Journal of Mathematical Physics
巻: 52 ページ: 023302-1-023302-19
Progress of Theoretical Physics Supplement
巻: 184 ページ: 523-532
http://ptp.ipap.jp/cgi-bin/link?PTPS/184/523/
巻: 184 ページ: 457-465
http://ptp.ipap.jp/cgi-bin/link?PTPS/184/457/