研究概要 |
近年,熱を電気に変換する熱電材料は,新しいエネルギー源として注目されている。熱電材料の高性能化には,高い電気伝導率と低い熱伝導率の実現が欠かせない。本研究では,低熱伝導率を示す新しい熱電変換物質として注目されているI型クラスレート化合物に着目している。I型クラスレート化合物は,堅固なホストケージとその中に緩く束縛されたゲストイオンから成る結晶である。先行研究により,I型クラスレート化合物の熱伝導率の温度依存性(κ(T))は,結晶の組成により大きく異なることが分かっており,ゲストの非調和的な振動が,熱を伝える音響フォノンを強く散乱して格子熱伝導率を抑制すると考えられている。ゲストの微視的運動の詳細を明らかにすることは,熱伝導率の抑制機構の解明につながることが期待される。平成21年度は,Ba_8Ga_<16>Ge_<30>,Ba_8Ga_<16>Sn_<30>,K_8Ga_8Sn_<38>を用いて以下に示す成果を得た。Ba_8Ga_<16>Ge_<30>は,κ(T)に大きな違いが観測される。κ(T)が抑制されている系ではケージのポテンシャルが異方的である。ゲストはこの異方性によって大きな半径を有する回転運動(オフセンター振動)をし,このオフセンター振動はケージに影響されていることが分かった。このように,オフセンター振動はκ(T)の抑制に重要であることが実験的に明確になった。この成果は日本物理学会で報告し,学術論文(Physical Review B)に投稿した。Ba_8Ga_<16>Sn_<30>では,ケージのポテンシャルは非調和的であり,興味深いことにポテンシャルの異方性が温度に対して変わることが分かった。この異方性の変化については現在検討中である。K_8Ga_8Sn_<38>は,ゲストがケージの中心に位置する系でありκ(T)は抑制されない。ラマンスペクトルからも中心に位置することが示唆された。これらの結果については現在解析中である。
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