研究課題
分子性固体は、分子間に働く相互作用、つまり周りの分子が作る環境場のために、孤立した分子や溶液状態と異なった、多彩で興味ある物性や現象を示す。その好例として、1個の光子で数百の分子の状態を変えることができる光誘起相転移があげられる。本課題では、光誘起相転移現象を中心に固体光物性ついて、周りの分子が作る環境場を取り入れて、第一原理計算を用いて解明することを最終的な目的にしている。このために、我々が開発に着手した理論計算のアプローチを発展させる。この方法では、結晶構造から切り出したクラスターに対して、第一原理的に電子状態を計算する。その際、クラスター内部の各原子の価数と自己無撞着になるように点電荷をクラスター周囲に配置することで、結晶状態により近い状況で計算する。このアプローチを、電子励起に伴う局所的な構造緩和を扱えるように発展させる。平成22年度には、光誘起相転移物質(EDO-TTF)_2PF_6の室温金属相に対して行ってきた我々が提案する手法を用いた計算結果をとりまとめ、論文として公表した。この研究成果で、我々は、この物質の金属相に対して「ダイマーモット状態」という新規描像を提出した。また、励起状態におけるダイナミクスの研究を目指して、21年度に着手した原子位置を緩和させる方法を深化させた。電子状態として基底状態を考えた場合、環境場として分子力場を加えることにより、(EDO-TTF)_2PF_6の結晶構造に加え、赤外及びラマン活性な振動モードを計算し、特にelectron-molecular-vibration(EMV)couplingについて実験をほぼ再現することに成功した。さらに、電子励起状態において、構造緩和がどのように起こるかについて研究を進め、最適励起状態からの緩和について予備的な計算を行った。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 79 ページ: 103705-1-103705-4