研究課題/領域番号 |
21540334
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
下位 幸弘 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (70357226)
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研究分担者 |
岩野 薫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究機関講師 (10211765)
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キーワード | 光物性 / 分子性固体 / 物性理論 / 計算物理 / 有機導体 |
研究概要 |
光誘起相転移現象を中心に固体光物性ついて、「環境場を無撞着に取り入れた第一原理計算」を用いて解明することを目標に、平成23年度は以下の研究を実施した。 (1)光誘起相転移現象初期過程のダイナミクスを解明することを目的に、光誘起相転移物質(EDO-TTF)2PF6を対象に、前年度に着手した励起状態に対する原子緩和の計算を進めた。光誘起相転移で重要と考えられる変形に対する配位座標を仮定し、ポテンシャル曲面を計算した。その結果、CT2と呼ばれる吸収バンドに対応する比較的高い励起状態が、大きな構造緩和を引き起こすことがわかった。一方、他の励起状態では、あまり大きな構造緩和を起こさず、励起状態により構造緩和の様子が大きく異なることがわかった。さらに、このCT2励起を詳しく調べるため、配位座標を仮定せず時間依存密度汎関数法で得られるエネルギー勾配を用いて構造緩和の計算を行ったところ、全体で0.2eV以上の緩和エネルギーの利得があることがわかった。この研究により、CT2励起緩和が、実験で観測される1.5eVの光励起による光誘起相転移の前駆体とみなすことができ、この系の光誘起相転移の理論的な理解に非常に重要な成果が得られた。 (2)本課題で進めてきたクラスターベースの密度汎関数(DFT)計算と比較、検討することを念頭に、2次元的な性格を持つ有機導体(BEDT-TTF)2I3について周期境界条件下でのDFT計算を行った。この物質は、低温で水平ストライプ型電荷秩序状態を形成することが知られている。低温相の結晶構造を用いてDFT計算した結果、実際の分子構造や分子配列を基にした計算として初めて、この型の電荷秩序が得られることに成功した。さらに、用いる汎関数により電荷秩序状態に違いがあることがわかった。ハイブリット型汎関数であるB3LYPを用いると、電荷秩序の大きさが実験と同程度であり、反強磁性スピン構造を伴うことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(EDO-TTF)2PF6の励起緩和や(BEDT-TTF)2I3の電荷秩序の理論的研究で、大きな成果がえられた。ただ、(TMTTF)2PF6の研究について成果のとりまとめには至らなかった。総合的に考え、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、本課題の最終年度にあたるため、これまでの成果を集大成するとともに、今後の新たな展開も念頭に置きながら以下の研究を進める予定である。(1)励起状態に対する原子緩和の理論について、より詳細な検討を進め、成果をとりまとめる。(2)(BEDT-TTF)2I3に対して行った周期境界条件下の成果を取りまとめるとともに、クラスターベースの密度汎関数計算においても、電荷秩序状態が取り扱えるかを研究する。
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