研究概要 |
本研究は,強磁性/反強磁性界面における「磁気的フラストレーション効果」を用いて,磁気構造や磁気転移温度など,物質の磁気的性質を積極的に制御することが可能かどうか,実験的に探ることを目的とするものである.強磁性/反強磁性積層膜の界面に導入された磁気的フラストレーション効果により,磁気構造や磁気転移温度など物質の磁気的性質,とりわけCrなどの反強磁性体の磁気相転移を積極的に制御することができるかどうかについて,局所的な磁性測定手段であるメスバウアー分光法(ガンマ線共鳴吸収分光法)および放射光核共鳴散乱法(いわゆる放射光メスバウアー分光法)を用いて調べ,界面効果を積極的に利用した磁性制御法の確立を目指していく. 平成22年度は,前年度に引き続き,下地強磁性層候補物質であるCo_2TiSn(強磁性転移温度370K)の薄膜作製条件最適化を進めた.一方,新しい局所磁性測定手段である放射光を利用した核共鳴散乱法を,薄膜試料に適用するための共同開発実験を推進した.その結果,これまで主流であった,パルスX線を入射したのち試料中の原子核により共鳴散乱されるX線を「時間スペクトル」として測定し,X線の干渉による"うなり"パターンから局所磁性を調べる方法とは異なる,通常の密封放射線源を用いたメスバウアー分光法と同様の「エネルギースペクトル」を測定して局所磁性を調べる方法を薄膜試料に適用することに成功し,薄膜の不均一な磁気環境の研究にきわめて有望な方法の構築に成功した. 次年度は,Co_2TiSn(001)強磁性層上に反強磁性Cr(001)層を積層し,強磁性/反強磁性界面における磁気的フラストレーション効果が反強磁性Crの磁気秩序にどのような影響を及ぼすかについて,Cr中にドープした^<57>Fe核あるいは^<119>Sn核をプローブとしたメスバウアー分光法(放射光核共鳴散乱法)を用いて調べる計画である.
|