本研究課題で開発した「相関長スケーリング法」を用いて、イジングスピングラス模型のスピングラス転移とそのフリージングダイナミクスについて調べました。ここでは、研究対象を磁気誘電体からフラストレーション系一般へと広げ、研究成果の波及効果を高めることを目的としています。スピングラスは、フラストレーションが部分的にランダムに緩和された磁性体です。長い研究の歴史があるにもかかわらずその低温相描像は未だに決着がついていない非常に難しい研究課題です。本研究では、この低温相において、臨界状態が連続的に存在する「臨界線」が現れることを指摘しました。通常の強磁性体でおこる二次転移の場合には臨界状態は転移温度直上においてのみ存在します。それが、低温相の連続する温度領域で存在するということです。これまでの先行研究では、異なる相転移温度と臨界指数が報告されていましたが、これらはすべて「臨界線」の存在で説明することができます。また、低温相描像についても重要な知見が得られました。それは、低温相状態が強磁性体のような固い状態とは異なる可能性が高くなったということです。 磁気誘電体における電場磁場温度相図に関する研究課題に関しては、必要とする計算スピードを得るために、GPGPUと呼ばれるグラフィックカードを用いた計算機システムの構築を行いました。従来のCPUのみの計算に比べて約10倍の高速化ができることを確認しました。ただ、実際の数値計算については23年度内には収束しなかったため、大学院生の修理論文課題として引き続き研究を行います。
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