研究概要 |
本申請の目的は、NMRとμSRというミクロプローブを用いて、乱れた量子スピン磁性体における絶対零度へ向かう臨界現象をダイレクトに捉え、ボースグラス相が実在するか検証を行うことである。ボースグラス相は絶対零度で現れるため、実験室すなわち有限温度で直接観測するのは難しい。これまでの研究は、ボースグラス相とBEC相との相境界の変化に関するものが殆どであった。東工大・田中らは量子スピン磁性体の固溶系(Tl,K)CuC13において、比熱と磁化率の測定から、相境界のべき指数が乱れによって変化することを見出し、Fisherらのスケーリング理論と一致することから、これをもってボースグラスの検証であると主張した。しかし、これはボースグラス相に隣接したBEC相の実験であり、ボースグラス相の実体は捉えていない。本申請では、絶対零度へ向かうNMRあるいはμSRの臨界減速を捉えることで、絶対零度で『実在』するボースグラスの実体を明らかにすることを目的としている。 本年度、我々は、NMRを用いて、ボンドランダムネスを含んだIPA-Cu(Clx,Brli-X)3の系において、磁場中で緩和率及びスペクトルの測定を行った。これまでマクロ測定によって0.87<x<0.44でのみギャップレストなると言われていたがNMRとμSR測定によって イ) x>0.87のCl-rich相では、NMRでもμSRでも磁気転移の兆候は見えずマクロ測定の結果を支持している。しかし、単純なギャップ相ではなく、低温でミクロ相分離している。また、ギャップ磁場以上の強磁場では単純な、BECではなく、位相ランダムネスを含んだ不均一な状態となることがわかった。ロ) x<0.44のBr-rich相では2KまでLROは存在しないものの明瞭なスピンフリージングが見られた。フリージングはxの大小0.1~0.4にほとんど依存せず僅かなランダムネスでギャップが破壊されることがわかった。このような振る舞いはCI-rich相とは全く異なっている。
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