フォノン機構の超伝導体を主対象に、擬クーロンポテンシャルμ^*の決定を始めとしたクーロン斥力効果も含めて超伝導転移温度T_c第一原理的に微視的に計算する手法とその計算コードを開発し、それを用いて超伝導機構へのより深い理解と高温超伝導体合成に向けて理論的観点から有用な示唆を与えることを目的とした研究である。具体的には、私が一様密度電子ガス系を対象として提出した定式化(厳密な超伝導方程式にG_0W_0近似を適用して得たギャップ方程式:J.Phys.Soc.Jpn.45(1978)786)を基礎として、(a)同じG_0W_0近似のレベルで非均一密度電子系に拡張してT_cを計算し、非均一密度の効果を調べること、(b)密度汎関数超伝導理論との対応を考えつつ、強結合強相関系にも適用可能なように近似レベルを向上させること、の2つを主な目標としている。 平成22年度、目標(a)に関連して、Abinitのバンド計算用のパッケージを基礎にして乱雑位相近似(RPA)での分極関数Π_0を計算するコードを開発し、空の格子構造における結果と比較してその精度をチェックしたが、残念ながら十分な精度のΠ_0が得られなかった。そこで、平成23年度にはVASPのパッケージを基礎として開発し直す。目標(b)については、密度汎関数超伝導理論における対相互作用の汎関数形の構成に関して、強結合強相関極限領域において正確なものに収束していく汎関数形の理論の開発を行い、それをアルカリ金属をドープしたフラーレン超伝導体に適用した。その結果、最近発見された圧力下のCs_3C_<60>を含めてT_cの再現に成功した。また、目標(b)に向けた別のアプローチとして、バーテックス補正の入ったエリアシュバーグ理論の具体的な定式化に着手し、バーテックス関数についての新たな知識を得た。
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