フォノン機構の超伝導体を主たる対象として、擬クーロンポテンシャルの決定を含めて超伝導転移温度Tcを第一原理的に計算する手法を開発し、それを用いて超伝導機構をより深く微視的に理解すると共に高温超伝導体合成に向けて理論的観点から有用な示唆を与えることを目指した。 まず、手法開発において、通常のグリーン関数法と密度汎関数超伝導理論(SCDFT)との対応を考えて、SCDFTにおける「対形成積分核汎関数」という概念を真の対分極関数とコーン・シャム系における対分極関数を用いて明確に定義した。そして、この汎関数の具体的な計算法を考案し、弱結合領域ではG0W0近似を再現しつつ、強相関強結合領域でも形式的には厳密なTcが得られる定式化を得た。この定式化は今年度発刊された岩波講座:計算科学第2巻「計算と物質」(押山淳編)の第8章「超伝導転移温度の第一原理計算」で詳しく解説されている。 次に、具体的な超伝導機構の研究に関して、上記の手法を用いて広範囲の探索を行った結果、弱結合領域ではTcは100Kを越えることは殆ど期待されないことや強相関強結合系でも殆どの場合、室温超伝導体は望めないことが分かった。唯一、強いフォノン媒介引力がクーロン斥力でほぼキャンセルされるような系では室温超伝導体の可能性があること、そして、その条件はある種の有機物では満たしうることを見いだした。 この他、ヤーン・テラー結晶における超伝導の問題で、一般的観点から理想ヤーン・テラー結晶を定義し、そこではフォノン機構とスピン揺らぎ機構や多バンド系の特徴である軌道揺らぎ機構などの電子機構が協奏してエキゾチックな超伝導が形成されること、さらに、その理想ヤーン・テラー結晶からのずれを引き起こす摂動は鉄系ではTcの上昇に結びつくが、バナジウム系ではTcの抑制に向かうことを見いだした。
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