本研究課題では、外部磁場がもたらす超伝導電子対がパウリ常磁性により破壊される傾向の結果もたらされる空間変調超伝導相を研究し、磁場以外の要因で発現が期待される変調超伝導相を理論的に検討し、上記2つの状況下での物理について知見を深めることを目的としている。21年度には空間反転対称性のない結晶構造を持ち、その結果ラシュバ型スピン軌道結合項を有する系の超伝導渦糸格子構造を調査し、その知見に基づいて超伝導ギャップのノードを有するゼロ磁場下の超伝導薄膜においてはノードと膜面に平行方向に空間変調を持つ超伝導状態が基底状態となることができることを示し、2009年日本物理学会秋季大会の一般講演で報告した。前者の系では、ゼーマンエネルギーがk空間で異方的であって、この磁場効果はちょうど、電気的に中性な超流体が一様な流れの場にある状況と等価である。一方、後者の系では膜面での超伝導秩序パラメタに関する境界条件が上記の一様流下の条件に相当することがわかり、前者からの類推によりゼロ磁場下の薄膜系においてギャップノードの方向に依存した空間変調が期待できることになる。前者の題材は学術論文としてPhysical Review誌に2009年度中に発行された。後者の題材についても2010年度中に掲載されるべき論文を現在執筆中である。 また、CeCoIn5の高磁場・低温相に関連して、FFLO超伝導相への不純物効果に関する新しい理論をPhysical Review誌にて発表し、CeCoIn5の高磁場相のドーピング依存性を説明することに成功した。これは今後、この高磁場相の正体に関する論争に一石を投じる重要な研究になると考えられる。
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