研究課題
フタロシアニン分子から構成される伝導体は、電気伝導を担うパイ電子系と、局在スピン源となるd電子系と相関効果が期待される物質系である。実際、磁場の印加によって電気抵抗が減少する、巨大磁気抵抗効果が観測されている。このメカニズムを解明する上で、本物質系の基底状態を明らかにする事は重要である。これまでの測定で、ブラッグ反射の中間位置に新たな散漫散乱がある事を見い出している。低温で電荷不均一状態(弱い電荷秩序)になっている事を示しており、パイ電子系における近接クーロン相互作用によって絶縁化している事が分かった。次の段階として、d電子の局在スピンが、パイ電子の電荷不均一状態に果す役割を明らかにする必要がある。そこで、X線散漫散乱強度の温度依存性を精密に測定した。その結果、散漫散乱強度が約30K以下で上昇し始め、約10K以下で強度がさらに急激に上昇することが観測された。田島らにより行われたトルク測定から約30K以下で局在スピンの反強磁性的な短距離相関が成長していくことが示唆されていることから、分子内のパイ電子とd電子の間に作用するフント的な強磁性相互作用によって、局在スピンの反強磁性秩序が近接クーロン相互作用を有効的に増強させて、パイ電子系の電荷秩序を安定化させていることが明らかになった。そこで23年度は、巨大磁気抵抗と電荷不均一性(電荷秩序)との因果関係を調べるために、X線散漫散乱強度の磁場依存性を精査していく予定である。
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Journal of Materials Chemistry
巻: 20 ページ: 4432-4438
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 79 ページ: 044606(1-6)