研究概要 |
結晶中の比較的大きな間隙(カゴ)にさまざまなゲスト原子が閉じ込められたカゴ状物質では,カゴとゲスト原子との相互作用によって特異な超伝導や熱伝導率の抑制など興味深い物性が出現する。それらの物性はゲスト原子の振幅の大きな非調和振動,いわゆるラットリングに起因すると考えられているが,その詳細は明らかになっていない。組成を変えずにカゴ体積のみ減少させられる圧力実験は、ラットリングによるフォノン散乱がカゴ体積にどのように依存するかを調べる最適な手法である。本研究の目的は高圧下における精密な比熱と熱伝導率測定から,(1)パイロクロア酸化物KOs_2O_6の超伝導特性とK原子のラットリングとの関連性を明らかにすること,および,(2)クラスレートのフォノン散乱のカゴ体積依存性を調べ,ガラス的な熱伝導率の起源を明らかにすることである。 (2)の研究に関連し,希土類元素を含むクラスレートEu_8Ga_<16>Ge_<30>の特異な強磁性とラットリングとの関連を調べた。この化合物は強磁性秩序を示すT_C=36Kより低温のT^*=24Kでも電気抵抗と磁化は異常を示す。T_Cでの比熱の跳びが分子場計算から期待される値の30%程度しかないことから,振幅変調磁気構造が予想されている。さらに高圧下ラマン散乱の実験から,4~8GPaまで加厚すると,14面体のカゴ中の4つの分裂サイトを運動していたEuイオンはカゴの中心に移動することが示唆された。また,13GPaまで加圧すると,この化合物は体積の急減を伴う同型構造相転移を起こすことが報告された。そこで,この化合物の15GPaまでの電気抵抗と磁化を測定した。その結果,T^*での電気抵抗の山は4GPaまで加圧すると急激に抑制されることが分かった。また,13GPa付近で室温の電気抵抗が約3倍急増することは,構造相転移に起因してキャリヤ密度の減少またはキャリヤ移動度の低下が起こることを示唆する。
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