研究概要 |
本研究の目的は,Ce-T-Al系の物質開発を行うことと冷凍機を用いた物性測定装置の開発を行うことであったが,研究開始の1年目(2009年度)に,CeRu_2Al_<10>という奇妙な相転移を行う物質を発見し,その相転移の起源の解明を行うことに集中した。本年度は,CeRu_2Al_<10>およびCeFe_2Al_<10>のRuおよびFeサイトをd電子数の異なるCo,Rh,Mnで置換した系の研究を行った。 Ce化合物の磁性は近藤効果とRKKY相互作用の競合(Doniach model)でほぼ理解されている。この場合,磁性を支配するものは伝導電子とf電子の交換相互作用J_<cf>とフェルミ面の状態密度ρ(εF)である。前年度までの研究でCeRu_2Al_<10>の相転移は圧力,すなわちJ_<cf>を変化させることで制御されることが明らかになった。本年度は同様な変化がd電子数すなわちρ(εF)を変化させることで起こるかどうかを調べた。実験上の最大の問題は,対応するRh,Co,Mn化合物が存在しないということであるが,10~30%程度まで置換可能であるということをEPMA分析から明らかにした。CeRu_2Al_<10>の電子ドープ(Rh,Co置換)においては,近藤温度は急激に下がり,それに伴い反強磁性モーメントは急激に大きくなり,通常の反強磁性体と似た振る舞いがみられる。しかし依然として相転移温度は高く,これらの反強磁性転移も単純なものではないと考えられる。また,ホールドープ(Mn置換)では,近藤温度は急激に増加し,それに伴い反強磁性モーメントは小さくなり遍歴的に変化する。したがって,CeRu_2Al_<10>においてはd電子数を変化させることによって近藤温度を大きく変化させることができるということが明らかになった。CeFe_2Al_<10>はCeRu_2Al_<10>に4GPa程度加えた状態であり,CeRu_2Al_<10>の母物質と位置づけられる。CeRu_2Al_<10>の置換においてもCeFe_2Al_<10>と同様な近藤温度の変化が見られたが相転移が出現することがなかった。このことから,CeRu_2Al_<10>の相転移は電子数が重要であり,近藤半導体であることが相転移と強く関係していることが分かった。
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