PrRu4P12の電荷秩序状態では、副格子の一つで結晶場3重項基底が安定化する。これまでに、この3重項における磁気モーメントとPrイオンの核スピンによる束縛状態の形成が、1K以下の低温領域の熱力学量に見られる様々な異常の原因であることを示して来た。当年度は、昨年度からの継続課題として、3重項と伝導電子の交換相互作用および核スピンとの超微細相互作用に基づいて、この系の低温領域での輸送特性の定量解析を進めた。特に、核スピンの寄与が交換相互作用を通じて、輸送特性にも明瞭に現れうることを示し、昨年度の成果と合わせて論文に纏めた。これら一連の研究は、PrRu4P12の物性が、100K程度の高温領域から0.1K程度の極低温領域まで、3桁もの極めて広いエネルギー領域にわたってpf混成モデルと良く整合することを示している。 このようにPrRu4P12が教科書的なpf混成系であることが分かったが、一方で、他のPrスクッテルダイトの低温物性は非常に多様であり、pf混成のみで説明することは困難である。そこで、このスクッテルダイトの多様性に関して、当年度は、PrRu4P12以外の物質のバンド構造の特徴に着目した研究に取り組んだ。すなわち、良く知られているpバンドとともに、遷移金属イオンによるdバンドを考慮し、現実的な電子軌道に基づいてdf混成モデルを導出した。さらに、f2配位における1重項-3重項基底をf電子の局在状態として、混成に関する摂動計算を行い、df間の有効多極子相互作用を導いた。それによれば、f状態が1重項基底の場合は四極子相互作用が、3重項基底の場合は磁気相互作用が主要となることが分かった。こうした解析は、長年問題になってきた1重項基底系のPr0s4Sb12における四極子効果や、3重項基底系のPrFe4As12などで最近見出された複雑な磁性が、df混成により統一的に説明できることを示している。こうして、本研究により、スクッテルダイト化合物の示す多彩な相転移現象が、pfおよびdf混成の案配によってもたらされているという全体像が明らかになった。
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