まず、前年度の研究を発展させ、S=1反強磁性量子スピン鎖におけるESRシフトの定量的理論を、1次の摂動論と量子モンテカルロシミュレーション、有効理論の方法などを組み合わせて構築した。その結果、単一イオン異方性を持つ系の実験データと良い一致を見ただけでなく、他の実験では区別をつけにくい単一イオン異方性と交換相互作用の異方性をESRシフトのデータを基に判別する方法を提案した。 さらに、有効交替磁場を持つS=1/2反強磁性量子スピン鎖のESRにおける鎖端の効果を考察した。この系のESRは有効理論である量子サイン・ゴルドン場の理論と、それに現れる素励起によって良く記述されることが知られている。しかし、近年の実験で理論的に予想されなかった共鳴がいくつも発見され、課題となっていた。現実の物質系では、不純物などにより鎖が切断され鎖端がある濃度で存在すると考えられる。我々は、この系のESRにおよぼす鎖端の効果を解析し、素励起の端における束縛状態が生じること、及び端の存在によって選択則が変化しバルクでは禁制となっている遷移が可能となること、の2つの要因による新たな共鳴を見出した。また、これらは実験で見出されたものと良く一致する。このように、量子効果と端の効果の相乗による新たな現象を明らかにした。 ボンド交替と次近接相互作用を有するS=1/2およびS=1反強磁性鎖量子スピン鎖も、やはり量子サイン・ゴルドン場の理論によって有効的に記述される。モデルがスピン空間の回転について等方的である場合、素励起であるソリトン・反ソリトン・第1ブリーザーと、第2ブリーザーの質量(励起ギャップ)の比は√3になるはずだが、実際の系ではかなり異なっている。これはマージナリー・イレレバントな摂動に起因するが、我々はくりこみ群方程式からスケーリング則を求め、S=1/2とS=1における数値的な結果を良く説明することに成功した。
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