研究概要 |
今年度は,乱れた量子細線系のモデルとして,一本の右向きカイラルチャネルとM本の左向きカイラルチャネルがランダムにトンネル結合した系(完全伝導チャネル数:M-1)を提案し,任意のMに対してコンダクタンスの平均値と揺らぎを解析的に求めることに成功した.平均値と揺らぎの細線長および完全伝導チャネル数に対する依存性は,当研究代表者が過去に導いたスケーリング理論の結果と完全に一致した.また,インコヒーレントな高温領域における単層ジグザグ端グラフェンナノリボン(完全伝導チャネル数:1)のコンダクタンスの振る舞いについて調べるため,ボルツマン方程式に基づいて平均コンダクタンスを計算した.その結果,平均コンダクタンスはオームの法則から大幅に逸脱し,リボンが長い極限で量子化コンダクタンスに収束することを見出した.この結果は,高温領域においても完全伝導チャネルが一つ生き残ることを意味しており,応用の観点からも大変興味深い.なお,今年度に予定していたグラフェンナノリボンにおけるコンダクタンスの大規模数値シミュレーションは,プログラムの作成が難航しているため次年度以降に行うことにした.現在,乱れを含む二層ジグザグ端グラフェンナノリボン(完全伝導チャネル数:2),二層ジグザグ端/クライン端グラフェンナノリボン(完全伝導チャネル数:1)および二層クライン端グラフェンナノリボン(完全伝導チャネル数:0)におけるコンダクタンスの数値シミュレーション用プログラムを開発中である.
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