研究概要 |
本年度は,乱れを含むジグザグ端グラフェンナノリボン(GNR)におけるコンダクタンスの数値シミュレーションを実行し,完全伝導チャネル(PCC)に対する位相緩和の影響を検討した.その結果,GNRにおけるPCCは強い位相緩和の下でも存在し得るだけでなく,むしろ位相緩和によって安定化されることを見出した.GNRにおけるPCCは谷間散乱を引き起こさない長距離不純物のみが存在する場合に発現する.位相緩和によるPCCの安定化は,僅かながら存在する谷間散乱によって誘起されたアンダーソン局在が位相緩和によって抑制されたためと考えられる.比較のため,発現原理の異なるカーボンナノチューブ(CNT)におけるPCCについても数値シミュレーションを用いて検討し,それが位相緩和によって簡単に破壊されてしまうことを確認した.また,フェルミ準位がディラック点から離れている場合,励起スペクトルに現れる三回対称歪みの影響によりCNTのPCCは消失することも確認した.GNRにおけるPCCは位相緩和および三回対称歪みの影響を受けないので,PCCの実験的検証を行う舞台として極めて有利であるだけでなく,デバイス材料としても有望と考えられる.これらの成果は国際会議において口頭発表した. 関連する問題として取り組んだグラフェン系におけるジョセフソン効果については,汎用性の高いジョセブソン電流の公式を導くことに成功した.また,この公式を用いた数値計算によってジョセブソン電流の振る舞いを解析し,理想的な極限において見出されていたグラフェン系に特有の振る舞いがより現実的な領域においても発現し得ることを確認した.この成果については国際会議においてポスター発表を行った.その他,トポロジカル絶縁体表面のディラック電子系や半無限グラフェン系のコーナーエッジに注目し,その電子状態の特異性を特徴付ける研究を遂行した.特に線状の結晶転位のある弱いトポロジカル絶縁体中にはPCCが現れ得ることを示し,その発現原理を解明した.
|